「【中東大混迷を解く】 シーア派とスンニ派 (新潮選書) 」書評

 #シーア派スンニ派 書評

 

 本書が冒頭で某世代の反米英的な切り取り方を「気持ちがいい」程度の次元と捨てるのはやはり驚く。「知識人≒左翼」であった時代は完全に終わった。他方で欧米はどうか。筆者ははっきりとは言わないが、専門書は出ない、新聞は勧善懲悪的な上記の類となれば日本の周回遅れである。
しかし本書の主旨は中東が宗派のみならずもっと細かく分断されているという主張である。
「斑状の秩序」というのは要するに中世的な「社会の集合である社会」である。各地の集団が仁義なき合従連衡を繰り返す。
千年後の人が見れば「オスマンの後釜の欧米が消え、宗教も巨大な紐帯を生み出せず基層が表面に出た」とでも言うのであろうか。
考えてみればオスマンイスラム帝国?)の区分け式統治の当然の帰結かもしれない。翻って日本や欧米はどうであろうか。欧州では中世的な分断が回帰し、米国は凋落する。米国が弱体化するなかで動く中国の未来はどうであれそれに日本は影響を受けざるを得ない。本書は米国の下降に伴う当然の結末の一面を描く価値有る力作である。時代の扉が今開かれた。